この著の奥付に彼女の経歴が1頁にぎっしり横書きで書かれているが、掻い摘んで書くと、 石岡瑛子(いしおか えいこ) 東京生まれ。東京芸術大学美術学部卒。資生堂在籍中アートディレクターとして手がけた広告キャンペーンが次々にヒットを飛ばし、社会現象にもなった。 1980年代から拠点をニューヨークに移し本格的に国際舞台で活動を開始。映画「MISHIMA」の美術監督として第38回カンヌ国際映画祭で芸術貢献賞を受賞、'87年、マイルス・ディヴィス「TUTU」のアートワークで第29回グラミー賞、他映画、オペラ、等に関する賞を多数獲得している。東京芸術大学教授。 そしてこの著が2005年に出た後、先に書いた北京オリンピック開会式の衣装ディレクターとして活躍した。 惜しくも2012年に亡くなっている。 あの高邁なMilesがどのようなやり取りのなかでこんな表情をして一枚の写真に納まったのか。それは石岡瑛子の著書を読んで貰えばわかる。 Milesがアコースティックを捨て、エレクトリックに走る嚆矢となった「ビッチェズ・ブリュー」を寺島氏はとことんけなし、それ以後のマイルスを聴かない宣言をしたくらい、ビッチェズ以後の作品からマイルスに愛想を尽かしたものだった。 その嫌悪感を全く疑わず僕もそれに従っていたものだった。 しかし何が誘因となったものか、恐い物みたさのような気で、聴いてみたなかの一枚にこのTUTUがあった。 いわばアコースティック・マイルスに対するエレクトリック・マイルスという対峙が馬鹿げていることに気づき始めたのだ。マイルスはあくまでマイルスだったのだ。その手法が全く過去のものと違う、そのこと自体がマイルスなのだ。 チャーリー・パーカーと競演していた頃のマイルスも所謂「'in」四部作の頃のマイルスもその後のモード手法を開拓し多くのミュージシャンに影響を与えた頃のマイルスも、そしてとうとう「電気マイルス」と揶揄され離れていったファンも多くあった頃のマイルスも、そして最期に晩年の一作に到るまで、一貫してマイルスはマイルスだったのだということに気づいた。 その一貫するものというのは、なかなかコトバにしにくいのだが、「破格」が彼の内部で絶えず起こっていたということではないだろうか。様変わりしてしまった恋人を昔はあんなではなかったと惜しむ人がいるが、多分寺島氏もその一人であろう。 何度も例えに出す人々、グレン・グールド、富岡鉄斎、バッハ、カラヴァッジョ、等々、あらゆる芸術において元の鞘に納まっていることに肯んぜず、絶えず己自身からも逸脱する革命児が現れる。 もとの殻に居続けることを畏れ拒否する人間のひとりに彼を数えいれて良いだろう。 そのことを「イエス」と言えるようになった自分を発見した時の喜びが確かにあった。 僕がアナログレコードにこだわり続けるのは、新しいものを拒否するからではない。それが優っていることを確信するからに他ならないからだ。しかしことはマイルスたちとでも言おうか、彼らの「変化」を受け入れられる自分に「イエス」を言ってやりたくなる。 ここにマイルスの一枚を代表させたが、これがマイルスだなどと言えるものはあり得ない。常にマイルスだからだ。 僕は欲張りだから、あくまでひとつのスタイルから抜けでないミュージシャンにも愛着をもつ。 それは今まで幾つも紹介したなかで立証済みであろうと思うが、こういう世界に節操などもつ方が無理な話だ。 と、そういうわけで。 TUTU Miles Davis-tp, Marcus Miller-b,GerogeDuku-b,t, Omar hakim-ds,perc, Bernard Wright -syn Michael Urbaniak-evio side 1 1.TUTU 2.TOMAAS 3.PORTIA 4.SPLATCH side 2 1.BACKYARD RITUAL 2.PERFECT WAY 3.DON'T LOSE YOUR MIND 4.FULL NELSON 音楽(ジャズ)ランキングへ
by jamal2
| 2017-02-09 14:02
| JAZZ一人一枚
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Comments(1)
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by
日光のもりびと
at 2018-04-14 15:11
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楽しく読ませてもらっています。
ゲームが好きなのでゲーム流に考えますが、ジャズがパーティだとすると、他のメンバーのスキルを、上手に、また貪欲に吸収し続けたのがマイルスではないかと。おじいちゃんになっても、そこらのガキのスキルに興味を持ち、パーティに誘い、貪欲に若者のスキルを吸収しました。ホワイトヘッドの抱握、まわりに生起するものを包み込んで自己を形成する、普通は先行するものですけど、マイルスは同時に生起するものまで抱握した、そんな感じですね。
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