先月読んだ関口安義氏の『芥川龍之介とその時代』に読者論(reader response theory)について触れている個所があり、氏の著を書くにあたって下敷きとしたのが、ヴォルフガング・イーザーの読者論であった。 これに関連した論考を検索すると、広島大学大学院教育学研究科紀要 第二部 第62号 2013 151-160に「イーザーの読者論再考― 読むことの基礎理論として何を導き出すのか ―」という鎌 田 首治朗氏の論文がみつけた。 彼は国語教育においてイーザーの読書論を批判的に再考しているのだが、イーザーの読書論の概要を以下のようにまとめている。 イーザーは,「テクスト」と 読者の相互作用によって読書行為が行われるとし,そ れを「レパートリー」「遠近法」「語り手」「筋の展開」 「登場人物」「読者の想像力」「主題-地平」「空所」「否 定」といった様々な概念を駆使しながら解明してい る。読者は,読書行為の中で,自分と「テクスト」と の「空所」を自らの内面世界から補充し,意味の結合 によって繋げたりして,自分の一貫した解釈を構成し ようとする。しかし,時に読者は,「テクスト」に書 かれていることと自身が組み立てた解釈との矛盾に気 づかされる。「テクスト」によって,読者の解釈の一 貫性が「否定」されるのである。しかしながら,この 「テクスト」による「否定」によって,ますます読者は, 解釈に熱中しなければならなくなる。「テクスト」を 読み返し,思考を繰り返し,一貫した解釈の構成に挑 戦を繰り返す中で,読者はやがて決定的な「テクスト」 と出会う。 ここで言う「空白」とは関口氏が指摘する「芸術における多義的鑑賞」を許容する余白だと言っていいだろう。 今日、ヴォルフガング・イーザーの『行為としての読書』を借りてきたが、彼の示す「テクスト」と 読者の相互作用によって読書行為とはどのようなものか確認できると思う。 因みに彼の著書の殆どは未だに翻訳されていなくて、邦訳されているのはほんの僅かでその中の一冊にあたる。
by jamal2
| 2022-09-10 10:23
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